出会いからはじまった学生との協働プロジェクト
2020年1月、大和郡山で開催されたリノベーションスクールに美想空間代表・鯛島がユニットマスターとして参加したことが、このプロジェクトの起点となった。
同じユニットには、建築分野、とくにリノベーションへの関心が高く、かつ通っていた高校が大和郡山にあったことで「大和郡山のまちをもっと魅力ある場所にしたい」と考えていた奈良女子大学の学生が1名参加していた。
スクールの場で共に課題に取り組んだことをきっかけに、その学生と美想空間はその後も関わりを持つことになり、次のプロジェクトへと発展していく。それが、奈良県生駒市にある築49年の木造アパートの再生『ただいまIKOMA』プロジェクトである。
アパートは4戸中3戸が空室となり、ほぼ空き家状態が続いていた。大阪中心地まで電車で1時間圏内という利便性のある場所でありながら、細い路地を入った目立たない立地や、近隣に新築アパートが増えたことにより、居住者同士のコミュニケーションが希薄になっている地域でもあった。
この状況を改善し、地域が再び活気を取り戻すきっかけになる場をつくりたい。そんな思いが共有され、学生たちと協働したリノベーション企画が動き出した。

学生が主体となった企画設計とコミュニティの構想
この物件の企画に際して美想空間が学生たちに提示した条件は、
①コミュニティを生むこと
②収益物件として成立させること
③予算内でリノベーションすること
枠を限定せず、学生ならではの柔軟で自由な発想を最大限活かしてプランをつくってほしいという意図があった。
中心となる学生が呼びかけたところ、14名もの有志が集まりプロジェクトチームが結成された。ちょうどその頃、コロナの流行がはじまり実地での活動が制限されたが、オンラインでの打ち合わせを重ね、実際の工事に至るまでの準備をひとつずつ進めていった。

学生たちが最も強く意識したのは、「高齢化」と「空き家化」、そして「新旧住民のコミュニケーション不足」という地域課題へのアプローチだった。そこで提案されたのが、高齢者と子育て世代が対等な立場で交流できる仕組みをアパートそのものに組み込むという発想である。
3戸の空室を「共有スペース」「単身高齢者のための住戸」「コミュニティ運営の中心となる住戸」に再編。共有スペースはアパート住人の“第二のリビング”として誰もが自由に使える空間にしつつ、地域にも開かれたコミュニティスペースとして計画された。
コミュニティの名称は「ただいま IKOMA」。
思わず「ただいま」と口にしたくなるような温かい場所であってほしいという意味を込め、さらに「憩いの間=憩間(イコマ)」という語呂を重ねたネーミングである。

多世代が支え合う暮らしの実現と地域への波及
完成後の「ただいま IKOMA」は、多世代が自然に交わる場として機能することを想定した作りとなった。
一人暮らしの高齢者は、生活の合間にふらっと寄るだけで誰かと会話が生まれ、孤立を防ぐ“日常の居場所”を得られる。一方、周辺賃貸に住む新婚ファミリーなど若い世代にとっては、子育ての知恵や人生経験を持つ大先輩と気軽に交流できる機会があり、家庭外の学びや安心に繋がる。
住民が互いを自然に助けあいながら暮らすことで、単なる賃貸物件ではなく“小さな地域コミュニティ”としての価値が生まれるようデザインされた。
また、共有スペースの壁面は近隣の子どもたちと一緒にDIYでペイントされ、完成前から地域の子どもたちが関わるイベントも実施された。これにより「ただの賃貸物件」ではなく「地域とつながる場所」としての認知が広がり、周囲の人々が関心を寄せるきっかけとなった。
長年この地域に住む人と新しく住まう人が混在しているエリアで、学生発信の企画が“出会いのハブ”になる可能性を示した成功事例にもなった。


投資としての成果と出口戦略
また、注目すべきは、このプロジェクトは不動産投資としても明確な成果を上げた点だ。
築49年、空室率の高い木造アパートを700万円で仕入れ、工事費として約900万円を投じた。完成後はコミュニティ型ソーシャルアパートとして再生・運用され、年間家賃収入は約240万円、利回りは約13%と、収益化の観点でも高い成果を示した。そして、最終的に1700万円でバイアウトに成功となった。
このプロジェクトは、学生の自由な発想と地域のリアルな課題、そして投資としての確かな視点が重なり生まれたものであり、古いアパートをただ改修することに留まらず、「地域課題の解決」と「投資としての出口戦略」を両立させた成功事例となった。

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