7年かけて関わってきたまちだから生まれた、『ビアポート築港』
『ビアポート築港』は、解体寸前だった築70年の木造住宅を、ブルワリー・サウナ・宿泊施設を備えた複合施設へと再生し、事業として成立させることで、まちに新しい人の流れを生み出そうとするプロジェクトだ。
このプロジェクトは、ある日突然生まれたわけではなかった。
わたしたち美想空間は、2019年から、築港で「KLASI COLLEGE」を運営してきた。古い建物を活用し、地域の人や学生、クリエイターなどが集まる場所として運営し、その取り組みは2020年度グッドデザイン賞にもつながった。
そこからシェアオフィス「築港ターミナル」、地域の風景を活かした屋外上映イベント「築港サンセットシアター」、学生主体のローカルメディア「ロコシル」など、少しずつ築港での活動を増やしていった。
一つひとつを見ると、ビアポート築港とは直接関係のない取り組みに見えるかもしれない。
しかし、7年以上にわたって、築港で事業や活動を続けてきたことで、美想空間には、このまちの人の動きや空気、地域の課題、そして「ここで何をやれば人が動くのか」という感覚が蓄積されていた。
だから、ビアポート築港は「空き家を見つけたから何かを始めた」という話ではない。築港で次に何ができるか。その問いから生まれた、次の一手だった。

「古い家」を、「このまちに来る理由」に変える
ビアポート築港はブルワリー、サウナ、宿泊を備えた複合施設だ。
その一見変わった組み合わせには、それぞれに役割がある。
ビールという「来る理由」。
サウナという「もう少し滞在する理由」。
宿泊という「遠方からも来られる理由」。
そして、滞在する時間が長くなれば、築港のまちを歩く理由も生まれる。
つまり、空き家に新しい用途を与えただけではなく、「この場所に来る理由」そのものを企画した。

事業スキーム — まちへの「投資」として組み立てる
もちろん、アイデアが面白いだけでは事業にはならない。
築70年の建物を活用し、ブルワリー、サウナ、宿泊施設という複数の用途を組み合わせる案件は、一般的な建築・不動産案件と比べても、金融機関から見て評価の難しい部分がある。
そこで美想空間は、資金調達の方法そのものから事業を組み立てた。
活用したのは、MINTO機構(一般財団法人民間都市開発推進機構)と大阪シティ信用金庫による「まちづくりファンド」だ。
総事業費は、美想空間の自己資金と、MINTO機構・大阪シティ信用金庫による「まちづくりファンド」で構成した。
ここで重要なのは、単に「銀行からお金を借りた」という話ではない、ということだ。
このプロジェクトの背景には、これまで築港で積み重ねてきた官民連携の土台がある。行政には、地域の課題や将来像を見据える立場があり、金融機関には、事業として成立するかを見極め、資金面から支える役割がある。そして民間には、自らリスクを取り、実際に事業をつくり、動かしていく役割がある。
それぞれが同じことをするのではなく、それぞれの立場だからこそできることを担う。その組み合わせによって、民間一社だけでは実現が難しい事業が動き出す。
だからこそ、美想空間が担うのは「”まちづくり”をすること」ではなく、まず「事業として成立させること」だ。自らリスクを取り、この場所で人が動く仕組みをつくり、継続できる事業にする。その事業性があって初めて、行政や金融機関、地域のプレイヤーとの連携が次につながっていく。
このプロジェクトは、ビアポート築港という一施設の収益性だけでなく、
・地域に新しい人の流れをつくる
・築港エリア内の回遊を生み出す
・地域外から人を呼び込む
・周辺への民間投資を促す
・そして、事業として継続する
という複数の価値を持ち、「一軒の宿をつくる事業」ではなく、「一軒の事業を起点に、街に次の投資が生まれる状態をつくる事業」として評価された。
そこには、これまで築港で積み重ねてきた実績、「この会社は、このまちで本当に継続して何かをやっている」という信頼があったからこそ、金融機関に対しても、事業計画書の数字だけでは説明しきれない「この場所で、この会社がやる意味」を語ることができた。
これが、今回の事業スキームの本質だった。



壊さずに残す、という設計
建物の改修では、すべてを新しくするのではなく、既存の梁や建具など、使えるものはできるだけ残した。
古い建物には、傷も歪みもあるが、それらは欠点ではなくこの場所にしかない価値になった。
70年という時間そのものをデザインの一部として残しながら、そこに新しい用途を重ねる。「古いものを新しくする」のではなく、「すでにあるものを読み直して、今の時代に必要な価値へ変換する」。ビアポート築港も、その考えのもと進められた。




一軒の空き家から、次の事業が生まれる街へ
では、ビアポート築港が完成したからまちが賑わうのかというと、そうではない。築港の課題がすべて解決するわけでもなく、むしろ、このプロジェクトは「次」をつくるための一歩にすぎない。
一軒の空き家が事業になる。
そこに人が来る。
人が来れば、周辺の店にも足を運ぶ。
まちに人の流れができれば、「ここで何かやってみよう」と考える人が出てくる。
そうしてまちの選択肢が少しずつ増えていき、賑わいが生まれる。
そして、それを見た人々が、それを「まちづくり」と呼ぶ。
美想空間の考える「まちづくり」は、結果論だ。
あくまで軸にあるのは、ひとつずつの「事業を成立させること」。
利益が出るから続けられる。
続けられるから、次の事業が生まれる。
次の事業が生まれるから、まちが変わっていく。
ビアポート築港もまた、美想空間のその考え方を形にしたもの。
今後も私たち美想空間は、建物を残すだけではなく、その先にある事業をつくる。
そして、一つひとつの事業から生まれる次の可能性を、まちへとつないでいく。

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