拠点の誕生とリノベーションの意義
築港ターミナルは、大阪市港区築港にある元海運会社の建物をリノベーションして誕生した。築港エリアは観光地である天保山や海遊館に隣接する立地でありながら、空きビルや空き店舗が目立ち、地域の文化や暮らしに根ざした新しい活動の基盤が不足していた。
そこでこの建物を再生し、クリエイターが活動を継続できる拠点として活用する取り組みが始まった。拠点には、個人で活動するクリエイターや、建築学生が運営するカフェ「TONKAN(トンカン)」も入居し、地域に開かれた場として運営されている。
ここは、単なる貸事務所ではなく、まちとつながり、クリエイター同士がつながり、そこから新しい文化を発信していく「ターミナル」として位置づけた点に特徴がある。リノベーションによって、築港ターミナルは単なるハコではなく「出発点」としての機能を持たせた。

共創が生み出すプロジェクトとイベント
この拠点の大きな成果は、入居者同士や地域の人々が協働してプロジェクトを立ち上げる循環が生まれたことにある。代表的な実績のひとつが「築港ナイトマーケット&サンセットシアター」。海辺のロケーションを生かし、夕陽とともに映画を楽しむ場をつくり、2024年には来場者1800名を超える規模へと成長した。


▼築港ナイトマーケット&サンセットシアターの記事はこちら
続いて、クリエイターたちが集まってアイデアを持ち寄り開催した「MINATO OLD BLOCK」では、シャッター街となっていた元商店街の軒先を借り、古着やアンティーク、珈琲屋、DJブースなどのコンテンツを並べた。
テーマは「古きよきもの」。住民も巻き込みながら、かつての商店街に新しいにぎわいを呼び戻す実験的なイベントとなった。


そして今後は「屋台のみなとプロジェクト」に挑戦する。学生や地域住民が主体となり、美想空間は協力者として関わるかたちで進行中だ。
屋台づくりや路上マーケットを通じ、まちを歩き直す機会を提供し、新しい循環を生み出そうとしている。
学生と地域をつなぐローカルメディアの挑戦
また「ロコシル築港」というハイパーローカルウェブメディアの取り組みもある。もともとは美想空間が立ち上げ自社で運営してきたが、現在は、建築学生が運営するカフェ「TONKAN(トンカン)」の学生へ運営をバトンタッチした。
学生記者たちは築港の人々や文化、歴史を掘り下げ、大人たちと対話しながら記事を発信する。若い世代が築港の魅力を再発見し、それを外部へ伝える活動は、地域のイメージ刷新やファンづくりにつながるだろう。
情報発信がクリエイター個人の範囲を超え、まち全体を映し出す視点へと広がったことで、築港ターミナルは単なる入居者拠点にとどまらず、地域を舞台とした社会実験のプラットフォームとして機能しはじめている。
▼ロコシル築港の記事はこちら
https://locoshiru.com
クリエイティブ拠点からまちのエンジンへ
築港ターミナルの特徴は、クリエイターが集まる場であることを超え、まちに新しい関係性を生み出す装置となっている点にある。
ナイトマーケットやサンセットシアターのように地域外の人々を呼び込むイベント、屋台の学校のように市民が参加できる実践的な取り組み、ローカルメディアによる情報発信。これらはいずれも入居クリエイターの個性が交わり、まちのポテンシャルを活かして形づくられてきた。
築港ターミナルは「築港のこれから」を実際のプロジェクトで示し続ける拠点となり、築港エリア全体の価値を高めている。リノベーションによって生まれた新しい可能性は、今も着実に拡大していく。
