歴史を背負った家に残された選択肢
敷地87坪、二度の増築によって母屋と離れを渡りの部屋でつないだ二世帯住宅。夫婦ふたり暮らしになった今、広すぎる家は今の暮らしに合わなくなっていた。
これからの暮らしを整えるため、想定した選択肢は三つ。①売却して都心のマンションへ移る、②更地にして新築する、③減築してリフォームまたはリノベーションする。
愛着ある住まいは手放したくはない。だが老朽化は避けられない。悩ましい気持ちの中、調査を進めた結果、なんと、母屋よりも離れの方が地盤が安定していることが判明した。そこで美想空間が提案したのは、『母屋を解体し、離れを残す』という逆転のプランだった。
何とも奇抜な提案に思えたが、これからの暮らしを安心安全にするためには、これが、間違いなく最適解だった。

骨董品と家具を主役に据える
この家の最大の特徴は、3世代にわたり集め続けられた貴重な骨董品や家具の存在。和洋さまざまなそれらが混在し、空き部屋に眠ったままになっていた。
施主自ら家具リストを作成し、優先順位を付け、配置図を描き込みながら計画を進めた。結果、リビングの造作棚には蔵書やボトルが一つひとつジャストフィット!元和室を活かしたダイニングには”仕掛け棚”を組み込み、他には絶対に存在しない小粋な意匠として残した。
桐箪笥や座卓も新たな居場所を得て、家全体が収蔵庫でありギャラリーのような唯一無二な空間へと生まれ変わった。

暮らしを軽やかにする回遊動線と外とのつながり
増築を重ねたことで複雑になった動線も整理し、キッチン・パントリー・リビングを回遊できる設計とした。掃除や片付けの効率が飛躍的に高まり、日常の負担が劇的に軽くなった。
さらに屋根付きウッドデッキを新設。庭を眺めながら夜風に当たり、夫婦で晩酌を楽しむ時間が生まれた。暮らしに余白を生み出す提案は、ライフスタイルを再編するリノベーションならではだ。


風景とつながる窓と、地域に開かれた暮らし
また、リビングの先に設けたサンルームには、貨物列車を望む窓を配置。新聞を片手に列車を見送るひとときが、新しいご主人の日課として暮らしに組み込まれた。
かねてから「やってみたかった」というご主人の意向から、2階の寝室以外にはあえてカーテンを設けず、開放的な暮らしも実現。ご近所との目線が交わる瞬間ももちろんあるが、そんなときは明るく声を掛け合う関係に変わっていった。家そのものだけでなく、暮らし方・地域のつながり方までもをリノベーションしたのだ。

三世代の記憶と暮らす住まい
K様邸のリノベーションは、住み慣れた家を単に残すだけではなく、未来に向けてどう暮らすかを起点に再構築した事例となった。
解体予定だった母屋を思い切って取り壊し、増築された離れを核に据えるという判断は、安心安全を優先した結果であり、同時に家具や骨董品といった大切な生活資産を活かす空間づくりにもつながった。
三世代にわたって受け継がれてきたコレクションが主役となり、かつては持て余していた広さや空き部屋が、いまでは暮らしを彩る空間に生まれ変わった。空間と動線も整理することで、日常の利便性も向上し、ご夫婦が望んでいた「これからのふたり暮らしにふさわしい住まい」が実現した。
