大阪市港区築港

空きビル再生から始まるまちの進化 ― 『KLASI COLLEGE』を起点に広がる港区築港モデル

SERVICE
エリアデベロップメント
KEYWORD
官民連携・地域創生
SOLUTION
事業構築・建築・企画運営
PROJECT
築港エリアリノベーション
空きビル再生から始まるまちの進化 ― 『KLASI COLLEGE』を起点に広がる港区築港モデル
PROBLEM

衰退が進んだ港町 築港エリア

大阪市港区築港エリアは、かつて海運業で栄えたが、高度経済成長期以降の時代の流れとともに人通りが減少し、商店街や倉庫に空きが目立つようになった。観光の中心は海遊館周辺に偏り、まち全体としての魅力や回遊性は発揮されないまま衰退が進んだ。地域再生には、単発イベントや物件改修ではなく、継続的な経済活動を生む拠点と、多種多様な連携が不可欠だった。

OUTCOME

空きビル再生を起点に広がる複合的なエリアリノベーション

美想空間は大阪市港区と官民連携協定を締結し、築約70年の古ビルを新たな拠点「KLASI COLLEGE」として再生。ここを起点に「築港ターミナル」「築港横丁」「築港ナイトマーケット&サンセットシアター」「ロコシル築港」「0円活用プロジェクト」など多彩な拠点やコンテンツを次々に展開。点在する取り組みが少しずつ連動し次第にまち全体の回遊性を高める“点から面”への展開が実現していった。

KLASI COLLEGEの誕生

築港エリア再生の出発点は、1950年代に建てられ老朽化が進んでいた歴史的ビルのリノベーションから始まった。

この建物は「KLASI COLLEGE」として生まれ変わり、住宅リノベーションのショールームとしての役割を担うと同時に、地域に開かれたコミュニティ拠点へと姿を変えた。

単に空間を整えるだけでなく、ここでの活動や出会いが街に新しい風を吹き込み、人が集まり交流する“場”をつくりだした。展示会やワークショップ、マーケットなどが定期的に開かれ、築港を訪れる理由をつくる場所として機能。外部からの来訪者と地域住民が自然に交わり、互いの暮らしや文化を共有できる関係性が築かれていった。

2020年にはグッドデザイン賞を受賞し、建築的な評価だけでなく「地域を動かす拠点をつくった」という社会的意義までもが認められた。

▼KLASI COLLEGEについて詳しく解説した記事はこちら

クリエイターが交わる築港ターミナル

KLASI COLLEGEに続き、元海運会社の建物を再生して誕生したのが「築港ターミナル」だ。

ここはクリエイターや建築学生が集まるシェアオフィスであり、単なる作業場にとどまらず、入居者同士の交流から協業が生まれる創造拠点となっている。

アート、デザイン、建築など異なる分野の人材が交わることで、多彩なアイデアや新規プロジェクトが日々生み出されている。ここからは、商店街の軒先を使ったマーケットイベント「MINATO OLD BLOCK」や、建築学生主体の「みなと屋台プロジェクト」といった企画が立ち上がり、築港を舞台に新しい文化的発信が行われるようになった。

築港ターミナルは、築港に新しい才能が集まり、チャレンジできる土壌を育む「ハブ」として引き続き機能していく。

シェアオフィス築港ターミナル
商店街の軒先をお借りして展開したイベント「MINATO OLD BLOCK」
テーマは「古きよきもの」。
住民の方も参加してくださり、良き雰囲気の1日。

夜のまちのにぎわいを取り戻す「築港酒場化計画」

また、築港エリアの大きな課題のひとつは、夜のまちのにぎわいを取り戻すことだった。その解決に向けて動き出したのが「築港酒場化計画」だ。

飲食店3店舗が共同で営業するシェア居酒屋としてスタートした「築港横丁」は、学生たちのアイデアを取り入れながら形づくられた。メニュー開発や店舗デザインにも学生が関わり、経営やマーケティングを学ぶ場としても機能した。

地元の飲食店主と若者が協働することで、築港に新しい酒場文化が誕生し、「弁天町まで行かなくても地元で飲める」場所として地域に定着した。

オープン後は地元住民だけでなく外部からも訪れる人が増え、今ではインバウンドのお客様も増え、すっかり築港の夜のNEWスポットとなった。

築港酒場化計画が始動したころ。対象物件にて打合せ。
学生が参画したこのプロジェクトは注目を集め、オープンにはテレビ取材も入った。
「自分のまちでおいしいお酒が飲める」幸せなことだ。

映画とマーケットが融合するイベント「サンセットシアター」

築港と言えば…と言われるイベントの創出にも取り組んだ。

2021年に始動した「築港ナイトマーケット&サンセットシアター」は、港の景観を舞台に映画とマーケットを組み合わせた野外イベントだ。

最初は試行錯誤の連続だったが、挑戦を重ねるごとに企画の幅が広がり、地域住民と外部の来訪者をつなぐ場として成長していった。

出店には築港ターミナル所属のクリエイターが多数関わり、会場装飾や企画演出に個性を発揮。映画を観る体験に加え、音楽ライブやクラシックカー展示、アメリカンヴィンテージをテーマにしたショップなど、五感で楽しめる空間が構築されていった。

2024年5月のvol.4では1,800名が来場。築港の夜に文化的なにぎわいを取り戻す象徴的なイベントとなった。

▼「築港ナイトマーケット&サンセットシアター」についての記事はこちら

まちのシンボル”みなと大橋”をバックに映画を上映。築港ならではの最高のロケーション。
大阪市内だけでなく市外からの来場者も多数。

学生が発信するハイパーローカルメディア

「ロコシル築港」は、学生記者が地域の人々や文化、歴史を掘り下げながら、未来を描く記事を発信するウェブメディアだ。

現在、築港ターミナルに入居するクリエイターと、同じく築港ターミナル1階でカフェを運営する建築学生コミュニティ「TONKAN CAFE」とが連携し運営している。若者ならではの目線で築港を取材し、大人や地域住民と対話を重ねるプロセス自体がまちづくりの一部となっている。

このメディア活動により、築港外部の人々にも届き「築港ってこんな場所だったのか」という新しい発見を与えてくれたり、地域の過去と現在をつなぎ未来を考えるきっかけを生み出す役割を担い、築港の魅力を再編集していくのでは、と期待している。

▼ロコシル築港のサイトはこちら

小商いを後押しする環境づくり

シェアキッチン「カリキチ」や、KLASI COLLEGEのフリースペースを家賃0円で提供した「0円活用プロジェクト」など、小商いをバックアップする活動にも取り組んできた。

特に「カリキチ」は、飲食業に挑戦したい人や趣味をさらに深めたい人が初期投資を抑えて営業に取り組める場として、多くの挑戦を支えてきた。

営業許可や衛生管理が整った環境に加え、ロゴ制作やメニュー撮影、イベント出店サポートなども行い、利用者が次のステップに進むための実践的な経験を積むことができ、実際にここから売上を伸ばし、独立へと踏み出した事例も生まれている。

単なる場所の提供にとどまらず、挑戦を後押しする仕組みを整えたことで、たくさんの小さなチャレンジが集まった。こういった活動は、長期的な関係人口の増加にもつながると考えている。

点から面へ、築港リノベーションモデルの確立

このように、KLASI COLLEGEを起点に誕生した多数の拠点やプロジェクトは、それぞれが独自の役割を担いながらも相互に連携し合い、まち全体を動かすエリアリノベーションの仕組みへと成長してきた。

ショールーム、シェアオフィス、居酒屋、映画イベント、webメディア、シェアキッチンなど、異なる性質を持つ「点」の活動が重なり合うことで、築港という地域全体の価値を高める「面」としての広がりが生まれている。

また、この取り組みは、官民連携の枠組みを生かしながらも、補助金に依存せず民間主導で進められている点にも大きな特徴がある。歴史ある建物や空き物件といった既存の資源を再編集し、人の流れや経済活動、さらには文化的価値を生み出してきた。

築港で培ったこのモデルは、地域の資源を活かしながら事業性と地域貢献を両立させる実践例として、全国の港町や地方都市にも応用できる“持続可能なエリアリノベーション”の事例となった。