夢を温めた時間と、突然訪れた転機
I様母娘が「自分たちのお店を持ちたい」と話すようになったのは十数年前。お嬢様が高校生の頃から描いていた夢は、やがて現実的な挑戦へと変わっていった。
社会人経験を経て資金を蓄え、2年前に本格的な物件探しをスタート。大阪市内の古民家や賃貸物件も候補に挙がったが、修繕負担や使用制限がネックとなり、希望は叶わなかった。
リフォーム業者やショールームを回るも「理想と少し違う」という感覚が拭えず、行き詰っていた。
そんな中、転機は突然訪れた。
IKEA帰りに立ち寄ったKLASI COLLEGEで、美想空間の施工事例に触れ、自分たちの理想と重なる感覚を得た。スタッフとの会話で「物件探しから伴走できる」と知り、再び挑戦を決意。
後日、恩智神社を参拝した帰りに偶然見かけた売り物件に心を奪われる。山並みを望む窓、公園を正面にした立地、鉄骨の佇まい。
想定していた駅近条件とは異なったが、直感で「ここだ」と決めた。

設計と施工のプロセス
計画のテーマは「暮らしと商いの分離」。
玄関位置を改め、階段を掛け替え、来客と生活を交えない動線を実現。1階はカフェとエステ、2階を住居とした。
店舗部分は鉄骨造の天井を躯体現しで見せ、白塗装で清潔感をプラス。木の質感をベースに、黒枠やR開口をアクセントとし、落ち着きの中にインダストリアルな要素を取り入れた。
サロンは高窓を設けて自然光を取り込みつつプライバシーを守り、洗面やトイレには異素材のタイルを組み合わせて印象的なデザインとした。
住居部分は最小限のリノベに抑え、限られた予算を店舗に集中投下するという、メリハリのある予算計画とした。


地域に開かれる店舗
また、工事の段階から売主さんや近隣住民の方が「開店が楽しみ」と声をかけてくださるなど、地域との関係性も順調に育まれた。
引き渡しの際、売主さんが隅々まで掃除をされていたことも印象的で、この場所が再び人々を迎えることを喜んでくださっていた。
恩智神社の参道沿いという立地は、初詣や桜の季節に人通りが増える。ここがまた、地域と共に賑わいをつくる舞台となる。

完成とオープン、そして広がるご縁
完成した店舗は、左にカフェ、右にサロンの二つの入り口を持ち、公園の緑が大きな窓いっぱいに映り込み、開放感のある雰囲気をつくっている。
オープン後は、I様母娘がこだわって選んだタイルや照明について質問を受けることも多い。丁寧に作り込んだ空間そのものが、来店の楽しみになっている。
また、ロゴ制作は美想空間が運営するシェアオフィス「築港ターミナル」のデザイナーに依頼し、そこからオリジナルグッズの制作や農家とのつながりが広がった。
母娘は揃いのロゴ入りユニフォームでキッチンに立ち、グッズを店頭販売した際も好評を得て、お客様とつながるアイコンとなった。
カフェでは麹を使ったランチやスイーツを提供し、将来的には自ら生麹を仕込み販売する構想も描いている。さらにワークショップを通じて新しいコミュニティを育む準備も進めており、挑戦は今も止まらない。




暮らしと商いの最適バランス
このプロジェクトは、暮らしと商いを同じ場所に組み込むことで、住まいと仕事の新しいかたちをつくり出した。二重のコストを抑えながら、地域との関係を自然に深められる住まい方でもある。
美想空間が大切にしてきた「人とまちをつなぐリノベーション」の考え方が、今回の住まいにも息づいている。
I様母娘が大切にしてきた夢がカタチになり、地域に開かれた場として歩み出したこの場所。ここからまた新しい物語が生まれ、暮らしと商いが育っていく。



