宮崎県宮崎市

海とまちをつなぐリノベーション―宮崎で描く 多拠点連動型のまち再生モデル―

SERVICE
エリアデベロップメント
KEYWORD
官民連携・地域創生
SOLUTION
事業構築・建築・企画運営
PROJECT
宮崎市エリアリノベーション
海とまちをつなぐリノベーション―宮崎で描く 多拠点連動型のまち再生モデル―
PROBLEM

海と自然のポテンシャルが眠ったままの宮崎

温暖な気候と豊かな自然、そして国内有数のサーフスポットを有する宮崎。観光地としての知名度は高いが、空き家や空きビルが点在し、その資源は十分に活かされていなかった。短期的な観光滞在には恵まれていても、長期的に移住し働く拠点や、地域と外部人材をつなぐ仕組みは非常に乏しかった。宮崎の可能性を次世代につなぐには、点在する資源をリノベーションで再編集し、多拠点を連動させるモデルを描く必要があった。

OUTCOME

空き家から空きビルまでを連動させたリノベーションモデル

海辺エリアでは空き家をリノベーションした「SAUNARF」でサーフィンとサウナを融合した暮らしを提案。市街地では行政・地元団体と連携して「街中リノベ会議」を発足し、空きビル再生プロジェクト「新公民館VOL」を実装。さらに「SURF WORK」によりサーファー人材と地域事業者を結び、移住定着と産業活性を同時に実現する仕組みを構築した。それぞれの拠点が単独で成立するだけではなく、点と点が連動し合い、都市全体を循環させるモデルへと成長している。

美想空間 鯛島と宮崎の出会い

宮崎。
温暖な気候と豊かな自然!そして、サーフィンの名所としても知られる場所でもある。
そんな宮崎に、海と波乗りが大好きな美想空間代表 鯛島は、約30年前から旅行者として訪れていた。
ピーク時は年間120日ほど足を運び、当然、次第に「ここで何かをしたい」と考えるようになった。

そして、「思い立ったら即行動!」なタイプの鯛島を中心に、私たち美想空間は、宮崎での活動をスタートした。
現在では、空き家を活用したサーフィンとサウナを楽しめる施設「SAUNARF」をはじめ、数々のプロジェクトを展開している。

多くの人々を魅了する宮崎の海

サーフィンと暮らしを結ぶ「SAUNARF宮崎」始動

画像

美想空間が宮崎で最初に手掛けたのは、サーフィンの名所にほど近い空き家をリノベーションし、サーフィンを中心とした暮らしを楽しめる施設「SAUNARF(サウナーフ)」だ。

「SAUNARF」は、暮らすように旅をする人に向けた拠点として誕生。宮崎だけでなく、伊勢志摩や徳島県宍喰へと広がり、それぞれの地域に合ったスタイルで展開されている。

「SAUNARF宮崎」は、サウナとサーフィンを融合させた新しい暮らしを体験できる“シェアハウス(お試し移住施設)”として運営。木崎浜まで自転車で10分、青島まで車で6分という絶好のロケーションに位置し、2024年8月からSNSで入居者募集を開始、本格始動した。

始動までの道のりは決して平坦ではなかった。最初に立ちはだかったのは「地域の理解を得ること」。地元のつながりや慣習に配慮しつつ、住民との対話を重ねる日々が続いた。鯛島は「少しずつ、少しずつ理解を得るしかなかった」と当時を振り返る。

そんな経緯もあり、当初は宿泊施設として計画していたが、最終的には“シェアハウス(お試し移住施設)”へと方向転換。地域に受け入れられる形を模索し続けた結果、住民との関係性が深まり、地域の移住センターとの連携も強化された。

幾度もの調整を経て、ようやく移住希望者が実際に暮らしを体験できるシェアハウスとしてのスタートラインに立った。

画像
「SAUNARF宮崎」の外観
画像
工事前の「SAUNARF宮崎」
画像
工事中の「SAUNARF宮崎」その①
画像
工事中の「SAUNARF宮崎」その②

実は宮崎市には、お試し移住の施設がほとんどない。
移住を検討する際、必ず直面する「仕事」「住む場所」「地域コミュニティ」という3つの要素。
その中でも「住む場所」のハードルを下げ、移住者が不安なく次の一歩を踏み出せるようサポートするのがSAUNARF宮崎の役割だ。
滞在は1ヶ月以上、最大で6ヶ月未満。
地元出身の管理人(兼 住民でもある)濱田さんが、移住実現までの期間を温かくサポートしてくれるので非常に心強い。

画像

SAUNARF宮崎管理人 濱田 琢磨さん
宮崎市青島出身
高校卒業後、福岡→佐賀→東京→神奈川を経て宮崎にU ターン。
県外に出たことであらためて宮崎の価値を実感。
地元、宮崎では観光関連事業に従事し東アジア地域のインバウンドを宮崎に誘致。

新しい働き方を提示する「SURF WORK」プロジェクト

画像

次に動き出したのが「SURF WORK」。地元の工務店・竹村工務店との出会いから生まれたプロジェクトだ。

サーファーであり大工でもある竹村晃一が「人手不足を補うだけでなく、サーフィンを愛する人が根付いて働ける仕組みをつくりたい」と相談したことがきっかけだった。

美想空間はここに「サーフィンを中心にした働き方」を掛け合わせ、都市部から地方に移住したい人材と地元企業をマッチングする仕組みを設計。

2022年以降、建築や農業などのフィールドで実証イベントを重ね、愛知からの移住者が誕生するなど成果を挙げてきた。この取り組みは宮崎市の「みやざきCITY PORT」とも連動し、官民一体で進められる仕組みとなっている。

SURF WORKは「海で遊ぶ」「地域で働く」「宮崎に暮らす」を支える移住モデルの一つとなった。

画像
株式会社竹村工務店 代表 竹村 晃一さん。新しい雇用スタイルを模索していた。

サーフワークはこれまでに、2022年6月に第1回「職人編」、10月に第2回「農業編」、12月に「サーフワークな働き方」を経営者の視点で考える座談会を開催。これらの活動を通じて、3名の移住者が宮崎で新しいスタートをきった。

イベントは、インスタライブやYouTubeも活用し、配信・収録・アーカイブするなど、幅広い層に向けて情報発信を行い、サーフィンと仕事を両立させる暮らし方や、実際に移住後に働く方法についてのアイデアを共有している。

また、2024年11月には、地域の工務店や事業者が集まる「親方会」を開催し、サーフワークの取り組みをさらに拡大している。
今後もこのような形で、年に2回程度のイベントを実施し、サーフワークの輪を広げていく予定だ。

画像
「野崎ファーム」さんと開催したイベントの様子。
画像
SNSを活用し幅広い層に向けて情報を発信。
画像
イベント後の懇親会もBBQで大盛り上がり!

サーフワークは、単なる仕事のマッチングを超えて、移住者がサーフィンを楽しみながら地域との関係を深めていき、新しい暮らし方を築くためのプラットフォーム。
【サーフィン×宮崎の豊かな自然×働く場】というこれまでにない掛け合わせが、新しい移住の形となり移住を考える方にとって魅力的な選択肢となることを目指す。

画像
宮崎の波を求め、愛知県から宮崎(青島)に移住した浦壁さん。
画像
(株)竹村工務店で大工見習いとして働き、現場仕事の前後にサーフィンという理想の暮らしを実現。

街中リノベ会議と空きビル再生の挑戦

そして次第に舞台は海辺から市街地へと広がった。

宮崎市中心部の商店街には活気ある路面店が並ぶ一方、2階以上の空中階は長年使われず眠ったままの状態。美想空間はここにこそ「まちの未来の余白」があると考え、行政・商工会議所・地域団体と共に「街中リノベ会議」を発足し活動を加速。

会議は単なる意見交換にとどまらず、現地を歩いて課題を洗い出し、アイデアを持ち寄り、プレイヤーを巻き込む実践的な場として進化していった。

空きビルの持つシンボリックな立地や空間的なポテンシャルを再編集し、まちなかに新しい文化と経済の循環を生み出す。その挑戦が次第に具体化していった。

画像
2024年4月に開催された「空き家活用」セミナーの様子。
画像
対象候補物件を視察されるまちのみなさん。

空中階を再生する「新公民館 VOL」誕生

そしていよいよ『新公民館 VOL』プロジェクトが動き出した。

橘通の空きビルを改修し、3階・4階・屋上をリノベーション。コワーキング、イベントスペース、バーカウンター、ポッドキャストスタジオ、サウナを併設した多層的な拠点が誕生した。

昼は学生やクリエイターが学び働き、夜はカルチャーイベントや交流会でにぎわう。屋上ではヨガや星空上映、BBQが開かれ、都市の中心に自然と交流の循環が生まれる。

すでに全国から登壇者を招いたリノベーション勉強会や、公開収録イベントが開催され、宮崎発の文化発信拠点として注目を集めている。

新公民館 VOLは単体での成功にとどまらず、海辺のSAUNARF、働き方を支えるSURF WORKと連動することで、宮崎全体を舞台にした循環型の都市モデル「海とまちをつなぐハブ」となることを目指す。

▼『新公民館VOL』プロジェクトの詳細はこちら

多拠点連動型のまち再生モデルへ

SAUNARFが移住の最初の一歩を受け止め、SURF WORKが働く場を提供し、新公民館 VOLが都市での交流と発信を担う。この三つの拠点は互いに補完し合いながら連動し、宮崎の「海」と「まち」をダイナミックに循環させる仕組みを生み出している。

点在する空き家や空きビルをただ個別に活用するのではなく、拠点同士をつなぎ合わせて地域全体を編集する「多拠点連動型リノベーション」。

宮崎で進むこの挑戦は、地方都市の新しいモデルケースとなりつつある。