はじまりは「街中リノベ会議」から。
「街中リノベ会議」とは、宮崎市都市整備部まちづくり課、合同会社TEGENA TOWN、宮崎商工会議所、そして株式会社美想空間が集まり、「街をどう盛り上げるか」を本気で話し合う場として生まれた。
きっかけは、まちづくり課が抱えていた「空きビル問題」。宮崎市の中心である商店街エリアには活気ある路面店や新しい店も多く、通りを歩けば賑わいを感じられる。
しかし、視線を少し上に向けると、2階以上のフロアは空きスペースが目立ち、ビルの上層部が”空中に取り残されたもったいない空間”となっている。この現状をどうにか変えたいという思いから、街中リノベ会議はスタートした。
そこに加わったのが、美想空間。大阪や奈良県大和郡山市などで数々の空き家・空きビル再生を実現してきた実績を持ち、宮崎でも「SAUNARF」など多数のプロジェクトを手がけてきた鯛島が参画。
鯛島はここで単なるリノベーションではなく、人・活動・経済が循環する拠点として再生させるモデルを提案。既存施策だけでは解決が難しい課題に、実践的かつ具体的なアプローチを持ち込み、新しい可能性を切り拓いた。この提案が評価され、実際の案件へとつながっていった。
会議は毎月1回のペースで開催され、行政と民間の垣根を越えて知識やアイデアを共有しながら、まちの魅力をどう引き出すかを議論してきた。
現地を歩いて課題を肌で感じ取りながら、リノベーションの具体的な手法を検討。移住センターとも積極的に連携し、リノベーションセミナーや空き家活用セミナー、さらには空き家・空きビル活用ワークショップを開催するなど、地域の内外から新たなプレイヤーを呼び込む仕組みも整えてきた。
こうして「街中リノベ会議」は、単なる話し合いの場ではなく、課題解決と実践を結びつける原動力として機能している。中心市街地に眠る未利用空間を再生し、まちの循環をつくり直す挑戦が、この会議から始まった。

橘通ビルとの出会いと計画策定
「街中リノベ会議」を軸にした活動が広がる中で、美想空間の空きビル再生プロジェクトが動き出すきっかけとなったのは、宮崎市中心部・橘通に面する一棟のビルとの出会いだった。
橘通は人通りと賑わいのある商店街エリア。路面には活気ある店舗が並ぶ一方、上階は長らく活用されず眠っていた。
この”空中のもったいない空間”に新しい可能性を感じたことが、「空きビル再生@宮崎」第1号物件に選定する決め手となった。立地の象徴性、十分な延床面積、良好な建物の状態に加え、まちの中心にあることが持つインパクトは大きかった。
再生に向け、まず着手したのは3階・4階・屋上。
美想空間がプロデュースを担い、利用者層・時間帯・利用目的を多角的に分析。複数用途が重なり合い、偶発的な出会いや交流が生まれる空間構成を提案した。地元クリエイターや起業家へのヒアリングも重ね、リアルなニーズを設計に反映させた。
計画の中心となる3階・4階には、会員制シェアオフィスを導入。
フリーアドレスのコワーキングスペースやバーカウンターを備え、少人数でのトークショーやイベントが可能な空間を整備する。さらに株式会社ONDと連携し、ポッドキャスト『リッスン』用の収録スタジオや仮眠室、サウナといった多機能設備も導入。
単なる仕事場ではなく、働く・集う・休む・発信するを横断する拠点を目指した。
工事は既存建物の良さを最大限に活かしつつ、用途変更に必要な動線・インフラ・法規対応を行い、2025年6月に竣工、8月に本格稼働を迎えた。
周囲にはスムージーが人気の店や話題のバレルサウナ、そしてチキン南蛮発祥の「おぐら」など、宮崎の個性を体感できるスポットが点在する。このエリアに新たな交流と創造の拠点が加わり、まちの循環を編集し直すプロジェクトが動き出した。



『第1号物件』の施設名が決定
美想空間の「空きビル再生@宮崎」第1号物件の施設名は『新公民館 VOL(ニュー公民館ボリューム)』に決定。
この名前には、物理的な空間の大きさを意味するだけでなく、”この場所が担う大切な役割”への想いが込められた。
『発信する場所』として…多くの”声”を発信し、新たな価値を生み出す場でありたい!という想い。
『クリエイティブを繋げる場所』として…さまざまなバックグラウンドを持つ人々が交わり、共鳴し合う場所になってほしい!という願い。
『地域の声にチューニングする場所』として…その声をより多くの人々に届ける場になろう!という決意!
こういった様々な想いをのせて、『新公民館 VOL(ニュー公民館ボリューム)』と決定した。
交流と想像を誘うリノベーション
『新公民館 VOL(ニュー公民館ボリューム)』設計時に大切にしたことは『単なる仕事場ではなく、働く・集う・休む・発信するを横断する拠点になる』にはどうすればよいか、という部分。
まず、3階の中心にはバーカウンターを配置。仕事や打ち合わせの合間に立ち寄り、会話やアイデアが自然に交差する場として機能する。バーカウンターを囲んでの偶発的な出会いが、新しいプロジェクトのきっかけとなるよう設計。
さらに一角には、少人数のトークイベントやワークショップに対応できる柔軟なレイアウトのイベントスペースを整備。日常の延長として気軽に使える場所でありながら、企画次第で新しい表現や発信が生まれる舞台にもなる。
また特筆すべきはポッドキャスト『リッスン』専用の収録スタジオを併設した点。交流の中で生まれたひらめきを、その場で発信につなげられる環境を備えた。
次に4階は「仕事とリフレッシュが自然に混ざり合う空間」として設計。集中して作業に打ち込めるコワーキングエリアに加え、宮崎ならではのニーズに応えた仮眠室を用意。青島など郊外から訪れる利用者が休憩を取れる場を確保した。
さらにサウナや浴室も完備し、仕事の合間やイベント後にリセットできる環境を整えた。サウナを介した偶発的な交流や、夜間イベント後に時間を気にせず滞在できる利便性もこの空間の魅力。利用者同士が交流し、自発的にチームを組んで動き出すことを後押しする設計となっている。
最後に屋上。「使い方は無限大」をテーマにしたオープンスペース。星空を見上げながらの映画上映、青空の下でのヨガや朝市、街を一望しながらの交流会など、宮崎の気候や景観を最大限に活かすことを想定した。
このような設計のもと、利用者は自由に企画し、実験的なチャレンジを形にできる場となることを期待している。




利用シーンが循環する場
オープン後は、ポッドキャストの公開収録や少人数制のトークイベント、ワークショップに加え、異業種の人々が交わるコラボレーション企画など、幅広いプログラムが次々に展開される見込みだ。
すでに内覧会や個別相談会をはじめ、藤本智士氏を迎えた「誰もが編集者」トークイベント、Japan Naviによる地方創生ラジオの公開収録、パネルディスカッションなど多様なイベントが実際に開催されている。
リノベーションの勉強会もシリーズでスタートし、三浦丈典氏(スターパイロッツ)などリノベーション事業実践者が続々と登壇。知識を得る場でありながら、新たなつながりを生む“実験の場”としての機能が動き始めている。
さらに、屋上では星空の下での交流会やヨガ、青空マルシェなど、宮崎の気候や景観を活かした催しが予定されている。すでにサウナと音楽を組み合わせたカルチャーイベントや、クラフトビールとのコラボ企画も計画されており、地域事業者と移住者、学生が混ざり合う“交差点”としての役割が強まりつつある。
こうした循環により、平日昼間には学生やクリエイターが学びや仕事に利用し、夜間や週末にはカルチャーイベントや交流会でにぎわうという、多層的な稼働が実現する。


地域価値と不動産価値の同時向上は可能?
空きビルの上層階は、企画と設計次第で地域のシンボル的拠点に生まれ変わる。新公民館 VOL は、単なる貸し床の提供にとどまらず、ポッドキャスト収録スタジオや会員制シェアオフィス、少人数制トークイベント、サウナ・仮眠室、屋上での青空交流会など、多様なプログラムを通じて文化・経済・コミュニティが交差する場として機能しはじめている。
実際にリノベーション勉強会や地域事業者とのコラボイベント、地方創生ラジオの公開収録などが次々と開催され、学生やクリエイター、移住者、地元事業者など、多様な人々が自然に行き交う環境が生まれた。こうした活動により、地域の魅力が高まると同時に、空きビルの価値も向上。新公民館 VOL は、地方都市中心部における空きビル再生の新しいモデルケースとして、地域価値と不動産価値の両立可能性を示した。
